2025.06.08
ミラノサローネ2025スペシャルレポート

毎年4月にイタリアで行われる「ミラノサローネ国際家具見本市(Salone del Mobile.Milano)」へ今年も行ってきました!
ミラノサローネは、インテリア、照明、アート、家電など多彩なジャンルの展示が一週間にわたって開催される国際的なイベントです。
出店数は2,000以上で、最先端のデザインやトレンドを会場のフィエラ・ミラノやミラノ市内で直に体験できます。
中には日本の企業も50〜60社ほど出展し、学生の方も参加していました。
そして今年は、ミラノサローネの中でも照明に特化した2年に一度の展示会「ユーロルーチェ(Euroluce)」が開催されており、会場は終始光に包まれていました。
「Light for Life(生活のための光)」と「Light for Spaces(空間のための光)」という二つのテーマで、単なる照らす道具としての照明ではなく、照明の陰影や調光機能などで空間全体の質を高めている様子が体感できました。
今回はその中でも、ショールームで人気の高い3ブランドをピックアップしてご紹介いたします。
FLOS
機能性と美しさ、クラシックと革新。そのバランスを絶妙にとらえたFLOSのコレクションは、住まいや商空間を問わず、光によって空間の質を高める存在として、多くの人々を魅了し続けています。
▶新作照明の前には沢山の人だかりが・・・注目度の高さがわかります。
今回のFLOSの展示「The Light of the Mind」は、デザインスタジオFormafantasmaによってキュレーションされ、訪問者に深い思索を促す空間として設計されました。このインスタレーションは、7本の映像作品を中心に構成され、FLOSの新作照明の創造プロセスを探求しています。映像は非線形に配置され、観る者に自由な解釈と感情の連鎖を促す構成となっており、照明デザインが単なる機能を超え、思考や記憶と結びつく芸術表現であることを示しています。
新作照明として発表された、ロナン・ブルレック氏(Ronan Bouroullec)による「Luce Sferica」と「Luce Cilindrica」は、吹きガラスの球体や円筒形のシェードがアルミニウムのボディに乗るデザインで、柔らかな光を空間に拡散させます。これらの照明は、雨粒や宙に浮かぶランタンを思わせる詩的なフォルムで、住宅やホスピタリティ空間に優雅な雰囲気をもたらします。
また、コンスタンティン・グルチッチ氏(Konstantin Grcic)による「Nocturne」は、ミニマルでありながら彫刻的な存在感を放つ照明で、空間に静謐な緊張感を与えます。マイケル・アナスタシアデス氏(Michael Anastassiades)の「Linked」は、ガラスチューブと金属の接点を連結させたモジュラー式の照明で、電気がチェーンのように流れる構造が特徴です。
▶ミニマルで無駄のない美しさに目を見張ります。
FLOSの展示は、派手さを抑えつつも深い印象を残すものでした。「The Light of the Mind」は、訪問者に思索の余地を与える静かな空間でありながら、照明デザインの可能性を広げる革新的な試みとして評価されました。新作照明は、素材と形状の探求を通じて、光の持つ詩的な側面と構造的な美しさを融合させています。FLOSは、技術と芸術、機能と感性のバランスを追求し続けるブランドとして、その地位を再確認させる展示となりました。
LLADRÓ×LEE BROOM
クラシックとコンテンポラリーを見事に融合させる英国の照明デザイナー、Lee Broom(リー・ブルーム)氏が2007年に自身の名を冠して立ち上げたブランド。照明・家具・アクセサリーの分野で唯一無二の存在感を放ち、世界中のデザインラバーを魅了し続けています。
もともと舞台芸術やファッションの分野にルーツを持つリー・ブルーム氏のデザインには、常にドラマ性とストーリーテリングが感じられます。まるで舞台装置のように空間を演出し、視線を惹きつける彫刻的なフォルム。光と影のコントラスト、素材への繊細なアプローチ、そしてラグジュアリーで詩的な美しさ。そのどれもが、彼の作品に一貫した世界観を与えています。
今回のサローネではスペインの名門磁器ブランド、リヤドロ(Lladró)とのコラボレーションによる新作照明コレクション「Cascade(カスケード)」を発表しました。この展示は、照明デザインの新たな可能性を示すものとして、多くの来場者の注目を集めました。
「Cascade」は、紙製の提灯から着想を得た照明コレクションで、磁器の持つ繊細な透明感と、「Lee Broom」の現代的な美学が融合しています。円筒形や半球形のリブ模様が施された磁器のシェードは、点灯時には柔らかな光を放ち、まるで宙に浮かぶランタンのような幻想的な雰囲気を醸し出します。このコレクションには、ペンダントライトやポータブルテーブルランプが含まれ、空間に詩的な演出を加えていました。
リー・ブルーム氏は、照明コレクションのデザインだけでなく、展示空間の設計も手がけました。彼はリヤドロの工房を訪れ、磁器の製造過程や素材の特性に触れる中で、磁器の新たな可能性を見出しました。「磁器の持つ透明感に魅了され、それを光と組み合わせることで、紙のランタンのような効果を再現したかった」と語っています。
▶今回のコラボが新たな潮流を生むような予感がします。
「Cascade」は、伝統的な磁器と現代的なデザインが融合した、静謐でありながら革新的な照明コレクションです。その繊細な光の演出は、空間に詩的な雰囲気をもたらし、訪れる人々に深い感動を与えました。「Lee Broom」と「Lladró」のコラボレーションは、素材の可能性を広げ、照明デザインの新たなトレンドをもたらしそうな予感がしました。
Tom Dixon
工業的でありながら官能的。ミニマルでありながら強い存在感。
Tom Dixon(トム・ディクソン)は、そんな相反する要素を自在に行き来しながら、現代インテリアシーンに新たな価値観をもたらしてきました。
ブランドの創設者トム・ディクソン氏は、もともとプロダクトデザインの正式な教育を受けておらず、独学で溶接技術を習得し、金属という素材に向き合いながらキャリアをスタートさせました。そのルーツは、現在のコレクションにも色濃く反映されています。
今回2025年のミラノデザインウィークでは、自身のショールーム兼レストラン「The Manzoni」にて、最新コレクション「AW25」を発表。
素材、光、フォルムの革新的な探求を通じて、照明というジャンルに新たな視点をもたらしていました。
▶新作「WHIRL」
▶新作「SOFT」
そんな「AW25」コレクションでは、新作の照明シリーズ「WHIRL」「SOFT」「POSE」が披露されました。「WHIRL」は、オプ・アート(Op-Art)に着想を得た螺旋状の表面を持ち、光の屈折と反射を巧みに操るデザインが特徴です。「SOFT」は、伝統的な紙提灯を思わせるマットな質感のテキスタイルを使用し、柔らかな光を放つ照明を実現しています。「POSE」は、フレネルレンズとマグネット式のボールジョイントを組み合わせ、天井や壁面に設置可能な多用途な照明として注目を集めました。
▶新作「POSE」
Tomdixonの「AW25」コレクションは、素材の特性と光の相互作用を巧みに活かし、照明デザインの新たな可能性を提示していました。特に「WHIRL」の螺旋状の表面が生み出す光の変化や、「SOFT」の柔らかな光の拡散は、視覚的にも感性的にも深い印象を残しました。また、放つ角度によって光の陰影が劇的に変化する「POSE」は、その空間を特別なものにする不思議な存在感を放っていて心を動かされました。
展示空間全体は一つのインスタレーションとして構成されており、訪れる人々にとって、単なるプロダクトの展示を超えた、五感で感じる体験となっていました。トム・ディクソン氏のデザイン哲学が随所に感じられる、非常に完成度の高い展示でした。
▶弊社ショールームで5月に開催された「Tom Dixon World Interiors Week Exhibition 2025 in Elighting」の様子はこちらから
まとめ
今年のミラノサローネでは、素材や技術の革新はもちろんのこと、私たちの“暮らしの質”に直結するような空間提案が数多く見受けられました。中でも印象的だったのは、照明の役割がこれまで以上に重視されていたことです。
光が持つ柔らかさや陰影、温度感の微妙な違いによって、同じ空間がまるで別の場のように変容する——そんな体験を通して、「照明を少し変えるだけで空間の心地よさが大きく変わる」という気づきがありました。
この感覚は、インテリアデザインに関わる人々だけでなく、私たち一人ひとりが自宅や職場と向き合い直す上でも、重要なヒントになるように思います。
照明が単なる“明かり”から“居心地をつくる装置”へとシフトしている今、改めて空間を見直すことで、暮らしの質にも小さくない変化をもたらしてくれる——そんな確信を与えてくれる展示会でした。